上高野の家 / House in Kamitakano 2020

 上高野の家は、京都市内、洛北の蓮華寺の程近くにある自邸兼事務所である。

 京都市内に在りながら、山々に囲まれたのどかな田園風景が残っており、また北側の田畑の先には一両編成の叡山電車が走り抜ける様子を望むことができる。計画にあたっては、そうした昔からある風景に溶け込むと同時に、埋没することのないよう自立した建築にすることを大きなテーマとし、相反する考えの共存を目指した。

 内部プランにおいては、各室が独立して機能するよう分割されたプランとしたが、これは、2階に仕事スペースがあることも踏まえ、各人が自立した生活を送ることを想像したからである。一方で、居間食堂は3間角+α、天井高約3.3mのゆったりとした空間とし、家族が集まる核となる空間とした。外観は、そうした独立した各室を包み込むようなシンプルな木箱として計画し、そこに単純な切妻の瓦屋根を架けた。家族の個人性を尊重しつつも、一つ屋根の下で暮らす共同体としての家族の在り方を考えた結果である。加えて、庭には基礎工事により排出された掘削土で土手を作り、地面には海に見立て砕石を敷いたが、それはこの住居が、家族が乗り込んだ一つの舟としても考えたからである。

 この家の外観に新しい要素は何もないが、上高野の地域性を考えると、その必要性もないと考えた。決して設計者の表現欲や奇抜性が出ることなく、あたかも以前からそこに在ったかのような、それでいて、地域性を継承していくような強い建築を目指した。

上高野の家 / House in Kamitakano 2020

 

所在地  : 京都府 京都市

用途   : 一戸建ての住宅

構造規模 : 木造2階建て

延床面積 : 129.19㎡(39.08坪)

施工   : 京都建設

造園   : 造景房吉   

掲載   : 令和4年度 「京都のステキな木の空間」事例集 (京都市)

     京都だより No,553 2022年8月号 (京都府建築士会)

                       住宅設計jp

       住宅建築 No,494 2022年8月号 (建築資料研究社) 

写真   : 市川靖史

       安原一成建築設計事務所